第5章 燭台切光忠
燭台切光忠は、この本丸に顕現されている太刀のなかでは古参の刀である。前の持ち主の影響が強く出て料理をも得意で家事能力は高い。審神者の間では「本丸のオカン」とも言われるスペックの高さを誇る燭台切光忠の影響力は、この本丸でも健在だった。
はずだが、光忠は今、審神者と一緒に玄関に正座させられ一期一振からお説教を受けていた。時間は午後10時を少し回ったところで、門限から1時間ほど遅れて帰ってきた為である。
「主殿にはいつもいつも申し上げておりますでしょうに遅くなるならなるで連絡するようにと大体燭台切殿も燭台切殿です早めに戻ると仰っておきながら何なんですか門限に1時間以上も遅れて帰ってくるとはこれでは下の者たちにも示しがつきませぬぞ古参の刀である以上新参の刀達の模範とならねばならないというのにそれをわかっておられるのでしょうかな」
相変わらず見事なまでのノンブレスである。満面の笑みで(ただし目は少しも笑っていない)淡々と続けられる説教に光忠は縮こまるが、審神者はもう慣れたものなのか右から左へ聞き流しているようだ。
「……主殿、聞いておられますかな?」
「聞いてるよ。だけど本丸を出る前に遅くなるってちゃんと言ったのになんで私達お説教されてるの?」
「門限を破ったからですがなにか?」
解せぬ、と顔に書いて審神者は反論を試みる。が、それも一期に一蹴されてしまった。
「とにかく、次からは決して門限を破ることのないように。よろしいですかな?」
一期の絶対零度の微笑みに、審神者は渋々頷いた。ちなみにその後1時間、お説教を受けていた時間も合わせると合計2時間二人は正座させられていたのである。