第5章 燭台切光忠
「まさかこんなところに食事処があったなんてね」
「意外でしょ?って言っても私もここは3回目なんだけどね」
食前酒を飲みながら、のんびりと会話を交わす。そろそろ夕食時ではあるが、丁度夜のメインショーの時間と重なりそれほど混雑している訳ではない。アメリカの街並みを模したエリアの港に停泊中の船という設定で、施設の端に大きな客船がある。その中にあるレストランの1テーブルで審神者と光忠は夕食を摂っていた。
「あれ?何度も来てるんじゃないの?」
「さすがにここは一人じゃあ敷居が高いから、ね」
審神者はほとんどの場合一人で来園していた。もちろん友人達と来園することもあるが、9割がた一人できていた。所謂ボッチ参戦である。そしてボッチ参戦の時は施設内で食事をすることは稀であった。肴になるものを一つ二つ買い、アルコールを一杯ひっかけて帰ることが多かったのだ。
「みなみはそういうのあんまり気にしない方だと思ってたよ」
「私だってそのくらい気にしますー。ここ、施設内のレストランではランク高い方だしね」
注文していたコース料理の前菜が配膳されると、光忠はほう、と零して目を細めた。
「へぇ、綺麗だね。前にみなみが買ってきたけえきみたいだ」
「サーモン……鮭のマリネとカリフラワーのムースケーキ仕立てってヤツね。ふふっ、美味しい」
「歌仙君が見たら真似したがるだろうなぁ」
「えー……それものすごい面倒なヤツじゃない」
「雅じゃないって怒られるよ?」
「断固拒否します。主命」
「ハハ、それ長谷部君にしか効かないよ」
和気藹々とした会話と共に食事は進む。3点盛りのデザートとコーヒーで締めると、さりげなく光忠が伝票を持った。
「あ、ごめん光忠会計するから伝票ちょうだい」
「いや、ここは僕が払うよ。こういう時は男が払うものだろう?たまには甘えてくれると嬉しいんだけどね」
スマートに会計を済ませる光忠に、審神者はこの場では甘えることにする。後から自分の分の代金を返そうとするが、光忠はこんな時でもない限り給料の使い道がないと言って、頑として受けとらなかった。ちなみにこの審神者の本丸では、給料制を採用している。