第5章 燭台切光忠
昼食を済ませたあと、パレード待ちに備えて近くの化粧室へ寄ると思いの外混み合っていた。用を足し軽く化粧を直して外へ出ると、待っているはずの光忠がいない。審神者がキョロキョロと辺りを見回すと、背後から何人もの年若い女の声が聞こえてきた。
「へぇー、お名前光忠さんっていうんですねー」
「超イケメンー。
「今日はぁー一人で来たんですかぁー?」
きゃらきゃらと黄色い声をあげているのは、歳の頃は18、19といったところの少女達のグループである。一々語尾を伸ばすというあまり聡明さの感じられない話し方で誰かを取り囲んでいる。そして囲まれているのは他でもない、探し人たる光忠だった。かなり戸惑っているのが遠目でも確認できる。
「いや、あの、そろそろ連れが戻ってくるから……」
「あ、お友達もー、一緒なんですかぁー」
「えー、じゃあお友達も一緒に私達とパレード見に行きましょうよぉー」
「ソレいいーっ!そうしましょうそうしましょーっ!」
光忠はナンパされていた。5対1。数の暴力に圧されていた。あ、コレ面倒なヤツだ、と察した審神者はさりげなく人混みに紛れることにした。耳だけはしっかりと光忠の方に向けながら、携帯端末を取り出しいかにも人を待ってますという顔をして背中を向けたのである。その間にも少女達は光忠の意思などまるで無視してことを進めようとしていた。グループの中の一人が、光忠の手を掴み歩き出そうとしたのだ。その時、事態は動いた。人混みが一瞬途切れたのである。審神者と光忠の間で衝立代わりになっていた人々がいなくなり、偵察値のさほど高くない光忠でもはっきりと審神者の後姿を視認できた。
「みなみ‼︎」
咄嗟に手を振り払い審神者の許へ駆け寄ろうとする光忠。いきなり呼び止められて、審神者は驚きながら振り返る。
「光忠、そこにいたのね」
「ごめんみなみ、すぐに見つけられなくて」
「いいよいいよ、それより大変だったみたいだね」
苦笑いで近づく審神者に、少女達の視線が突き刺さる。