第5章 燭台切光忠
「えー、何あのブス」
「彼女気取りとかないわー」
「何不細工が勘違いしてるんだか。超ウケるー」
わざと周囲に聞こえるように、少女達は口々に審神者を貶める。予想通りの展開に審神者は苦笑いを更に深めた。審神者が何も言わないのを良いことに、少女達はどんどんヒートアップしていく。
「……いい加減にしてくれないかな」
低く、唸るような声がした。殺気すら感じるその声の主は光忠だった。
「いくら女の子だからと言ってそれ以上僕の大切な人を悪く言うのは許さないよ」
平時の優男然とした声音ではなく、まるで戦時のような鋭い声に少女達は思わず口を噤んだ。もしも触れることができたなら一刀の下に両断されてしまいそうな光忠の視線に身を竦めている。戦に馴染みのない平和な時代に住む彼女達は、それが殺気だとはわからないまま静かにじっとりとした恐怖を感じていた。
「もういいよ、光忠。それよりパレード始まっちゃうからそろそろ行こう」
ギリギリで保たれていた均衡を破るかのように、審神者の声が響いた。言外に相手にするなと含ませて、一つ溜息をつく。これ以上は施設の迷惑になるからと、光忠を促しその場を離れた。
「ごめんみなみ、嫌な思いさせちゃったね」
「光忠のせいじゃないよ」
「いや、やっぱり僕のせいだよ。もっときっぱり断っていればこんなことには」
「なってたと思うよ?光忠かっこいいからあの子達じゃなくても誰かしらナンパしに来てたと思うし」
光忠が唇を噛む。審神者がしまったと思った時にはもう遅かった。
「ごめん。ホント僕かっこ悪いね」
「光忠……」
パレードの内容は、少しも頭に入って来なかった。