第1章 夢の国へ
「現世に連れて行ける刀剣は一振りだけ。これは決まりだからどうにもできないの。だからみんなで話し合って順番を決めてくれる?」
「さしでがましいことを申し上げますが、ここは随分と多くの人々が集まる場所とお見受けします。もし歴史修正主義者が紛れ込んでいたらどうするおつもりですかな」
唯一行きたいと言わなかった一期一振が苦言を呈す。それに対して審神者はさも当然という顔をして言った。
「それは大丈夫。だってあそこは夢と魔法の国だから」
「……は?」
一期は戸惑った。主たる審神者が何をもって大丈夫と判じたのかがわからなかったのだ。主は夢と魔法の国だから大丈夫だと言った。ということはこの娯楽施設は外つ国にあるのか。いやまさか外つ国にあるのならばおいそれと連れて行くなどとは言えまい。では何故大丈夫だと言うのか。そもそも夢と魔法の国とはどういう意味なのか。混乱するばかりの一期に審神者は笑いながら説明してみせた。
「この娯楽施設はね、そこで働く人達によって徹底した快適さと安全性と利便性が担保されてるの。それらは働く人達の意識の高さとおもてなしの心が生み出したもので、この娯楽施設の唯一の理念でもあるの」
確かに画面の端々に時折映る人々は皆笑顔だった。だが、それが何故歴史修正主義者の襲撃に繋がらないと言えるのか。一期はますます混乱した。
「訪れる人々に幸福をっていうのがこの娯楽施設の理念なんだけど、これって働く人達から訪れる観光客に対してだけじゃないんだよ。訪れた観光客から他の観光客に対してもこの理念は働くの。ここにいる全ての人に幸福をっていう思いがこの施設を支えてる」
ある意味結界みたいなものだね、と審神者は笑った。なるほど人の思いは時として結界をも超える効果を生み出すことがある。だが、それが完璧な安全性の担保になるのかといったら果たしてどうだろうという思いが一期にはあった。まだこの本丸に来て日が浅く、練度も低いが、自分が弟達を守らなければという自負がそうさせた。