第3章 御手杵
待ち時間の表示は10分だったが、実際に待ったのは5分ほどだった。舟に乗り込み、ある男の冒険をなぞる。中程まで進んだ頃か、御手杵は自分の知る物語とは違うことに気がついた。
「なぁみなみ、この間見た話と違わないかコレ」
「え?ああ、うん違う話だよ。こっちはシンドバッドっていう盗賊のお話」
薬研を連れて行って以来、この施設の基礎知識となる映画を、刀剣男士達と何本も見ていた。その中にこのアトラクションに出てくる人形達とよく似た衣装を着た男の話があったことを思い出す。同じアラビアが舞台の話だから、御手杵が間違えてしまうのも無理はない。帰ったらこの物語の映画も探しておこうと審神者は思った。
うっそうとした森の中で、もうどれくらい待っただろうか。入り口にあったボードの数字は45となっていたが、かれこれ一時間は待っているような気がした。御手杵は少しばかりゲンナリした顔をしているが、審神者は気にも留めていないようだ。一人ワクワクしながら順番を待っている。施設の再奥にあるこの場所は、キャラクター達と写真が撮れるグリーティングスペースである。順番を待ちさえすれば必ずキャラクター達と会えるので、当然ながらそれなりの待ち時間が発生する。それでも今日は短い方だと審神者は笑っていたが、御手杵の疲労はピークに達していた。
「ほら、もう少しだから頑張って」
「ああ、まぁいいけどよ。しかしそこまでして会いたいもんか?」
「せっかく来たんだから会わないともったいないでしょ‼︎」
今日一番の笑顔を見せる審神者に、御手杵は隠れて溜息をついた。主が楽しいのなら待っていようか。諦めにも似た気持ちで、御手杵は少しずつしか動かない列の先頭を見据えた。