第2章 薬研藤四郎
「そろそろ帰るか、姉貴」
「そうだね、風が出てきたから今日は花火やらないだろうし」
「早く帰らねぇといち兄が怖いしな」
「あえて忘れてたこと思い出させないでよ」
パレードの余韻もそこそこに二人は立ち上がる。ふと、薬研は城の方を見つめて呟いた。
「なぁ姉貴、また来ようぜ。今度はみんなで」
「……うん、そうだね」
二人の視線の先には青白く照らされた城と、それを背景に佇むこの施設の創始者と相棒のネズミの銅像があった。
「ただいま」
「あ、帰ってきましたよ‼︎おかえりなさい主君、薬研兄」
「ただいま前田。はいこれお土産。みんなで食べてね」
「わーいお土産だぁ‼︎秋田、五虎退、みんな呼びに行こう‼︎」
「乱、横から手を出すなよ。大将、薬研兄おかえり」
「ただいま厚、いち兄は?」
「あー、今叔父上が抑えてる」
本丸へ帰投した二人を粟田口の短刀達が出迎えた。皆無事に帰ってきた二人から早く話が聞きたくて玄関で待っていたらしい。つい先程までは一期も一緒に待っていたそうだが鳴狐が部屋へ連れて行ったと厚が報告してくれた。なかなか帰ってこない二人にイライラが頂天に達していたようだ。物音がする度に抜刀せんばかりの殺気を放っているのを見かねてのことだった。
「これ1時間お説教コース確定だね」
「いち兄全然笑ってない笑顔で説教するから怖えんだよなぁ」
想定内とはいえ戦々恐々としながら大広間へ向かうと、一期と鳴狐以外全員が集まってきていた。皆早く話が聞きたくてウズウズしている。審神者が席に着くと、乱が待ちかねたように声をあげた。
「主、お土産開けていい?」
「うん、いいわよ乱。ついでにみんなに配ってくれる?」
はーい、といいお返事が返ってきたのを確認し、審神者は皆に声をかける。
「みんなお留守番ありがとう。無事に帰ってこれました。お土産は私からのと薬研からのがあるから一個ずつ持っていって」
乱が箱を開けると中身はクッキーだった。秋田と五虎退が嬉しそうに笑う。薬研は自ら箱を開けて、煎餅を配って回っている。それを見ながら燭台切と歌仙がお茶を淹れてくると席を立った。