第2章 薬研藤四郎
と、丁度その時スパァーンと勢い良く襖が開いた。皆の視線が一点に集まる。そこには途轍もなく良い笑顔の一期がいた。ただし、目は少しも笑っていない。
「お待ちくだされ一期一振殿、短気はなりません。なりませんぞ」
「落ち着け、一期」
後ろの方からお供の狐と鳴狐の声がする。どうやら抑えておける限界点を突破したらしい。一期から凄まじい殺気がほとばしる。そのままつかつかと審神者の前まで進むともう一度にこやかに笑った。ただし目は全く笑っていない。
「主殿お覚悟はよろしいですかな全く貴女という人はこんな時間まで何をしていたというのですかおそくなるならなるで一言報せるものでしょうだいたい貴女は危機管理意識が低すぎるいくら薬研の練度が高いからと言ってこんな時間まで連れて歩くとは何事ですかな仮にも嫁入り前の身だと言うのに慎みというものを御存知無いのでしょうか」
ここまで一息で一度のよどみもなく言い切った。見事である。皆呆気にとられている中でいち早く我に返ったのは薬研だった。
「落ち着けっていち兄。大将は俺っちが楽しめるように色々手を尽くしてくれたんだ。それに遅いって言ってもまだ9時を過ぎたばかりじゃねーか」
それに、と薬研は続ける。
「いち兄が心配するようなことはまず起こらねえ。あそこは本当に夢の国だ」
「……薬研?」
「俺っちは行ってきたからわかる。見回りの係員は常にいるし、客に何かあればあちこちからすぐ声がかかる。掃除の係員なんか客にそうと悟らせないようにしながら頃合いを見計らってゴミを回収しに来るんだ。だからゴミひとつ落ちてない。すげぇだろ?」
園内がいかに安全で快適であるのかを丁寧に説明する薬研。一期は黙って聞いていた。
「心配してくれてありがとう一期。でもね、貴方がそこまで責任を負うことはないのよ?」
優しく語りかける審神者の言葉にも一期は黙っていた。するとここで御手杵が突然口を挟んできた。
「要は主を無事に連れて帰ってくればいいんだろ?だったらなんも問題ねーじゃねーか。次は俺だからきっちり連れて帰ってきてやるよ」
御手杵がそう言うと、皆我も我もと申し出る。一致団結した仲間達の姿に一期は溜息を一つ落とした。
その後この本丸に門限が設定されることになった。