第2章 薬研藤四郎
「それより姉貴、ぱれーどの場所取りしなくていいのか?」
膨れっ面の審神者にやれやれといった顔で薬研が問うと、審神者は打って変わって不敵な笑みを浮かべた。
「布石は既に打たれているのだよ薬研君。何の意味もなくここに座った訳じゃない」
「……?それって……?」
「まあまあ、今しばらくお待ちください」
「姉貴、何を企んでやがる?」
「企むとは失礼な。……って、そろそろ始まるみたいだね」
パレードの開始を告げる案内が流れると、街灯の灯りが落とされ少しだけ闇が深まる。しばらくして軽快な行進曲が聞こえてきた。それとほぼ同時に薬研は目を見張る。美しくも圧倒的な光の洪水が押し寄せてきたのだ。華やかに煌めくもの、静かに温かく灯るもの、刻々とその姿を変化させるもの。ありとあらゆる光の競演が目の前を通り過ぎていく。動画で見たものよりはるかに美しく、力強く、華麗で繊細だった。
「ここからパレードが見えるのよ。綺麗でしょ?」
なるほどこのテラス席はパレードルートに面していて、それでいながら一歩引いた位置にあるのでフロート全体を見渡すことができる。しかも窮屈な思いをせずに済むというオマケ付きだ。ただの休憩、ぐらいに思っていた薬研はそれが間違いであったことに驚くとともに感心した。
「姉貴って、実はすげーのな」
「実はって何よ実はって。伊達に毎週通ってた訳じゃないんだから」
言葉とは裏腹に審神者の表情は柔らかい。良かった、と薬研は思う。自分だけでなく、主たる審神者も楽しんでいる。そのことが薬研をいたく安心させた。ずっと自分だけがもてなされているような気分だった。だが、そうではないことを審神者の表情は語っている。
全ての人に幸福を。
皆で動画を見ていた時のことを思い出して、薬研はそっと心の中で願った。目の前を通り過ぎていく幾万もの地上の星が、我等が主に幸福をもたらすことを。