第2章 薬研藤四郎
通常観客席というものは、前列の方が良い席とされる。だがこの夢の国に於いては、唯一後列こそが良い席とされるショーがあった。何を隠そう今から薬研と審神者が見ようとしているショーがそれである。このショーは夢の国中央にそびえ立つ城をスクリーン代わりに、音楽と映像を融合させた3Dプロジェクションマッピングと呼ばれる技法を駆使して行われる。しかしその全貌を、薬研はもとより審神者も知らない。元々このショーは、数十年前に他のショーと交代する形で打ち切られたショーである。それが最近になって何周年記念だかで復刻されたのだ。当時よりもはるかに進んだ技術で再現されたショーは評価も高く人気もあり、城前の中央鑑賞エリア入場券はプラチナチケット化していた。そのプラチナチケットの中でも中央ブロック最後列の一番端から2席という好ポジションを薬研は当ててみせた。さすがは末席といえど神位に座すものだ。御利益があるやもと、審神者はこっそり後ろから薬研を拝んでおいた。
ショーの始まりを告げる案内が流れると同時に、城を青白く照らしていたライトと辺りの電燈が灯りを落とした。辺りは一瞬暗闇に包まれる。暗闇の中を小さな光がキラキラと輝く粉を撒き散らしながら飛び回る。光はだんだんと大きくなり、次第に羽根をもつ人の形をとる。小さな妖精が、観客達を御伽の世界へ導いた。
「すごかったね〜、お城が画面代わりになっちゃうなんて」
「ああ、しかも飛び出して見えたりする時もあってさ。今の技術ってのは大したモンだな」
興奮冷めやらぬまま、審神者と薬研はアイスクリーム屋のテラス席にいた。あまりのショーの見事さに終わるまでずっと口が半分開いていた審神者は、ドリンクで喉を潤している。
「姉貴ずっと口が開いたままだったよな」
「そういう薬研だってポカンとしてたじゃない」
茶化されて反撃を試みるが、どうにも審神者の方が分が悪い。むう、と頬を膨らませて審神者は押し黙った。