第2章 薬研藤四郎
抽選会場に入り、薬研は驚いた。本丸の大広間より少し狭いくらいの部屋の中にいくつか塔のようなものがあり、その周りに人々が群がっては一喜一憂している。審神者の説明によると塔のようなものは抽選機なのだそうだ。
「薬研、抽選やってみる?」
「やるやる‼︎」
薬研は二つ返事で答えると、審神者の言う通りに抽選を始めた。抽選機に入場券をかざし画面に触れる。しばらくすると軽快な音楽が流れ下から券が二枚出てきた。
「すごい薬研当たったよ‼︎さすがウチの懐刀‼︎」
「わかったから少し落ち着け姉貴」
興奮気味な審神者を落ち着かせようとしている薬研の顔が得意気だったのは言うまでもない。
抽選会場から出てきた二人は、とあるアトラクションまで足早に移動していた。待ち時間は45分。今の内に乗らなければ後々に響く。会話もせず黙々と歩いていった先には、機関車を模したジェットコースターがあった。
「さて薬研、お待ちかねの三大マウンテン最後の一角だ。存分に楽しみたまえ」
「おお、やっと来たな‼︎望むところだぜ‼︎」
薬研が嬉し気に目を細めると、審神者も微笑んだ。ふと、薬研が真面目な表情に戻る。何かを言いかけて口をつぐむが、思い直したか再び口を開いた。
「姉貴はさ、なんであの動画みんなで見ようと思ったんだ?」
唐突な質問に面食らうが、審神者は薬研の顔を見て答えた。
「たまたま見つけたからっていうのもあるけど、多分私がみんなと見たかったんだよねきっと」
「それって……?」
「私の好きなものをみんなと見たい。あわよくば誰か一人だけでも興味を持ってくれたらいいなぁなんて思ってた」
まさか一期以外全員釣れるとは思ってなかったけどね、と苦笑して、審神者はアトラクションを見上げる。
「私の好きなものをみんなにも好きになってもらいたかった」
小さく呟いた言葉を薬研は聞き逃さなかった。なんと声をかければ良いのか一瞬迷っている間に、審神者は目線を戻しわざと不機嫌な声を出した。