第2章 薬研藤四郎
結論から言えば、近い方を選んで正解だった。審神者と薬研は今、ピザやポテトで軽く昼食をとりながらパレード開始を待っている。そして二人の手元には一枚の写真があった。先程まで乗っていたアトラクションの舟が滝壺に落ちる瞬間を撮った一枚である。舟の三列目には審神者と薬研が写っている。薬研は満面の笑みでサムズアップを、審神者はペロリンピースをして、二人共がバッチリカメラ目線で写っている、そんな写真である。
「姉貴コレさぁ……俺っち達はいいけど他の人が見たらなんだコイツラとか絶対思わねぇか?」
「まあね、でも一期が納得するような写真にしなきゃいけなかったし、私達の他にこの写真買ってる人いなかったから問題ないでしょ」
そういう問題ではないのだがと心の中でツッコミを入れながら薬研はもう一度写真を見やる。他の客達が揃って顔を強張らせたり叫んでいるような表情をしている中で、明らかに自分達二人が浮いている一枚を。後日、粟田口の長兄がこの写真を見て何をどう判断するのか、この時点での二人は知る由もなかった。
やがて軽快なファンファーレが聞こえてくる。パレードの始まりだ。審神者はビデオカメラを、薬研はデジカメを構えフロートの到着を待つ。先頭には6人の衛兵隊、続くフロートには王子と姫の格好をしたアヒルのカップルが乗っている。次々と現れるキャラクター達に、薬研は夢中でシャッターを切った。そして黒いネズミのカップルの乗ったフロートが現れると、パレードは一旦その進行を止める。曲調が変わりキャラクターやダンサー達が踊りだすのを、薬研はカメラに収めるのも忘れて見入っていた。ふと、隣りで小さく黒ネズミの名を呼ぶ声が聞こえてくる。隣りを見ると審神者がカメラがブレないよう控え目に手を振っていた。その柔らかな微笑みを薬研は一枚だけカメラに収めた。