第19章 劇(退院祝い)
緑川「よくもっ!
よくも恵土を殺したな!!!(涙」
菊地原「…殺した、か」
緑川「殺しただろ!
だって、その手にあるものは…
恵土の亡骸だ!!!」
栞「悲しみに包まれる二人の心、
居て欲しい時に居てくれなかったこと…
悲痛な思いが胸を駆け巡る中、返ってきたのは一つの応えでした…」
菊地原「…恵土が見たら、どう思うだろうな…
殺したって言うけど、そっちはどういうつもりで捨てたの?
あんな可愛い、純粋な犬を…」
緑川「!…それは…
恵土なら、1匹でも生き延びられるって思って…
父上が、恵土のためにもそうした方がいいって」
菊地原「あんなに人懐っこくて
甘えては笑って、楽しそうにしてばっかりのあいつが…?
あいつは、人を求めていた。
例え、飢餓状態で殺されてもおかしくないとしても
それを解った上で、大好きだって想いをぶつけて
一緒に居るだけで、本当に嬉しそうに楽しそうに笑う奴だった…
それを捨てておいて、人のことを言える?」
緑川「!…」
栞「その言葉に驚きを隠せず
ふと我に返りながら、刃物を下ろしました…
それに、共に過ごした8か月もの時を思い出しながら
苦しそうにつぶやきました…」
菊地原「…あいつの最期、知ってる?」
緑川「!」
菊地原「あいつは…
俺に生きて欲しいって
自分の体を差し出して、食べろって…
風邪をひいて、あまり動けない僕に
刃物を押し付けながら、嬉しそうに笑ったんだ…
食べられるって知った後も…
食べられるために切り裂かれている最中も…
本当に、嬉しそうな…穏やかな顔だった……
だから僕は…生きていく。
これからも…その命と共に…」
緑川「っ…;」
栞「その最期の光景が浮かぶ中
少年は涙を流していました…
どれだけの時が過ぎようとも
決して変わらぬ人への愛、想いに…
彼が生き延びてくれて、本当に嬉しいと
きっと今も喜んでいることを感じ入りながら…」