第42章 飲み会(昔話)2
『姉上も、近界民に殺された。
近界民に操られたクマに…
それでも、私はどうしても憎み切れなかった。
失う痛みを知っているから
奪われる痛みを知っているから…
こんな思いを、誰かに与えて苦しませたり、哀しませたり…
ましてや、痛い想いなんて味あわせたくないっ;』
『私はずっと、いたかった。
それだけでよかったんだ。
それ以外に、何もいらなかった;
それだけで、本当に幸せだったんだっ;;』
『自分で選べ。
お前が行く道を決めるのは、俺じゃない。
お前自身で決めて、生きなければいけないんだ』
風間「…最後の言葉は、空閑の父からの受け売りらしい。
8歳から8歳半まで、ずっと考え続けていた。
仇(かたき)と再会するまで、ずっと…
おそらく、有吾さんも解っていたんだろう。
次に渡る近界がアフトクラトル…
恵土の村を襲い、全てを奪った国だということを……
だからこそ、それまでに生きる道を見極めさせたかったのかもしれない。
ブレないように、真っ直ぐ進める道を…
自分の目で見極めて、きちんと向き合って……
結果、人がいる限り争いはなくならないと言っていた。
人だけじゃなく、あらゆる生物でも同じだと…
各々が個性があるように、譲れないものもそれぞれで違う…
その結果、ぶつかり合っては争いへと発展する。
だからこそ…
だからこそ、悪いものが何なのか…
この憎しみややるせなさを、どこへぶつけたらいいか
必死で考えたんだろう。
どこへ行っても、同じだった。
余裕があれば、奪い奪われるようなことはない。
それでも余裕をなくせば、奪わなければ生きていけない。
命を食らい、命を生き永らえらせるそれは…
随分昔から受け継がれてきたものだ。
『解ってた、本当は…
生き行く道において、それは…
どうあっても、変えられないものだってことを……
でも、気づいちまったんだ。
近界民が、家族に囲まれて笑ってる時…
父上と母上と笑い合ってた私と同じだって、ダブっちまった。
そして…
誰か一人でも奪えば、それは変わってしまう。
同じになってしまうんだ、奪った奴等と……
生きる目的を失った。
それでも、それは護りたいってものに変わっていった。
あの笑顔を…
護りたかった日々を、これからも与えられるならって』