第32章 奇跡
籠はそんなに離れてはいなかったため
ライトが消える中、それでも顔は見えていた…
恵土「!…え?」
驚き、何も言えずにいる恵土の中
風間の心は、ぐるぐると葛藤が続いていた…
風間(何で…
どうしてっ……
そんなにも、人のことを…?)
小南を通して知った
恵土の味わってきた『過去の残酷さ』は理解しているはずだった…
それでも、その影響がここまで強く出ているとは思わなかった…
それを目の当たりにし、動揺していた…
そこまで、強く影響が出るのかと…
怒りを感じなくなるほどまで、心は死んでしまったのかと……
それを理解するや否や、風間は…
気付かぬ内に、涙を流していた……
殺された、恵土の心の代わりに泣いているかのように…
恵土「???
どうした?
何も悲しむことなんてないだろ?
ってか大丈夫か!?;
お前が泣いてる所なんて初めて見たぞ!(汗」
若干慌てながらも駆け寄り
心配そうに風間の背中をさする中
ぎゅう!!
恵土「!?」
風間「ぎゅううう)…」
驚きで目を見開いた…
風間が、瞑っていた両の目から涙を流しながらも
いきなり、強い力で抱き締められたから…
恵土「ちょっ;
本当にどうした?風間。
なんか今日はちょっとおかしいぞ?;」
風間「…いえ(首を横に振る)
至って正気ですよ」
恵土「?それにしてもおかしいだろ?
逆に喜ばれるのが普通だぞ?
皆で笑って、幸せそうにするのが普通だろ?
今までだってそうだったじゃんか。
そうじゃない日なんて、なかったぞ?
周りだってそうだったし
そこで怒りを感じる方がおかしいって、周りの皆も言ってたぞ?
殺された方がいい存在で、今もそれは変わってないんだろ?」
そう言う恵土に、目を向けると…
それは今までと変わらず、真っ直ぐなもので…
とても苦しそうには見えず、心配されていた…
逆に、それで幸せだと言って笑えば
すぐにでも笑い出してしまいそうにも見えた……
風間「今…解った…」
恵土「?」
それと同時に、理解したように感じた…
恵土が味わった『この世』というものが
どういうものだったのかを…
風間「この世は…地獄だ……」
その言葉は、闇夜に響いた…