第1章 春ノ刻 土方歳三
「そんな、私は勘違いなどしませんから……お気になさらなくても」
「そういう問題じゃねぇ。きっ気持ちの問題だ……気持ちの」
あまりにも歳三様らしくない声色だったので、不意に顔を見上げればほんのりと頬を染めた歳三様が恥ずかしげに目を逸らしていた。――驚いた。
この人もこんな顔をするのかと、驚いて目を見開いたと同時に急にぐっと恥ずかしさが込み上げて来て……私までもが照れくささから目を伏せてしまう。嬉しい、ただ素直にそう思う。こんなに愛らしい櫛を選ぶのに、わざわざ雑貨屋に入ってくれたのだろうか。
歳三様のことだから、きっと凄く嫌だったのではないだろうか……相手の思いを考えれば考えるほど、この櫛が特別なものに見えてきて。私はそっと大事に胸の内に仕舞った。
「本当に……ありがとうございます。こんなに素敵な櫛を頂いたのは、生まれて初めてです」
「そっ、そうか……。それはよかったじゃねぇか。本当は、お前が屯所に住むことになった時に……買って渡そうと思ったんだが。どうにも、なんて言って渡せばいいかわからなくてな。お前は少し俺を怖がっていた節があったからよ」
「そんなことありませんよ!? たったぶん……」
その時の自分の気持ちを今、思い出すことは出来そうにないので……勘弁してほしいところです。
気が付けば、歳三様は私の肩を抱き寄せてそのままぎゅっと胸の中に私を閉じ込めた。