第1章 春ノ刻 土方歳三
「歳三様……此処は?」
「以前散歩していたら見つけた秘密の場所だ。辺境の地にあるみたいでな、知っているものがいないのかそれともごくわずかの人間しか知らないのか……いつ来ても此処は静かで、この時期は綺麗な桜がどっしりと構えて咲き誇ってやがる。どうだ、悪くない場所だろ?」
「はい、とても……素敵です!」
まさか歳三様がこんな素晴らしいところに、私を連れて来て下さるなんて……信じれらないくらい嬉しいです。高揚する気持ちを押さえながら、桜を見上げる。夢中に桃色に魅入られていると、不意に肩を叩かれ我に返った。
「志摩子。お前にもう一つ見せたいものがある……いいか?」
「はい、なんでしょうか?」
歳三様は軽く目を伏せ、懐から小さな包みを取り出した。気付けば距離は縮まり、緊張する暇もなく手を取られたかと思えば、歳三様は私にその包みを握らせる。
「歳三様?」
「……こういうのは、柄じゃねぇ。らしくもねぇ。でも、そうだな……いつかお前に渡したかったものだ。受け取ってくれるか?」
そっと包みを開くと、赤基調で毬と桜の花模様が入った櫛がありました。
「櫛……ですか?」
「まっまぁな……。簪も考えたが、その……簪を女に贈る意味を考えた時、それはねぇだろう……と思ってな」
「簪……」
確か男性が女性に簪を贈るのは、とても特別な意味があると聞いたことがあります。