第1章 春ノ刻 土方歳三
「わからねぇって顔してんじゃねぇ、いいから……はぐれても困るからな。俺の腕でも掴んでろ」
「ああ、そういう意味だったのですね……! すみません、まったく気付かず」
「嫌だって言うなら、このままお前の手を掴んで歩くぞ、いいのか」
「いっいえ! 喜んで腕を拝借致します!!」
慌てて歳三様の腕に手を添える。なんでしょう、とてもこれは恥ずかしいような気がします。心なしか、すれ違う方々に見られているような気が……。
「とっ歳三様……あのっ」
「いいから黙って歩け」
「は、はい……」
掌からほんのりと伝わる歳三様の体温。意識してはいけない、わかってはいてもこれだけ近い距離にいればそれが不可能なことくらい流石の私でもわかる。ちらりと綺麗な横顔を見上げれば、歳三様は真っ直ぐ前を向いたまま、私の視線を知る由もない。
何処に行くのかと思っていたら、いつの間にか町の喧騒を抜けて町の離れにある森へと入り込む。大丈夫なのでしょうか? 少し不安には思うものの、相手はあの歳三様です。危険なところへ私を連れていくとも思えません。
生い茂る草木を払いのけ、本当に大丈夫だろうかと不安に思い始めた途端――開けた場所へと飛び出した。かと思えば、そこには満開の"桜"が美しく咲いていた。
花畑ならぬ桜畑? いえいえ、それでは可笑しいですね。これを何と呼べばよいのでしょうか? 満開の桜に囲まれた場所……とても神秘的で不思議な場所です。