第1章 春ノ刻 土方歳三
「志摩子、湯が沸いているぞ。いいのか? そのままで」
「……っ!」
我に返れば、お湯が既に沸いていた。有難いことに、一様は呆然としていた私を見兼ね火を代わりに止めて下さいました。危なかったです……。
「ありがとうございます!」
「いや……これくらい、別に構わない。早くお茶を持っていって差し上げて欲しい」
「はい、そうさせて頂きますね」
一様に改めてお礼を告げ、お盆に淹れたてのお茶を乗せその場を立ち去った。ついつい一様といると、話し過ぎてしまう。人と話すことさえ、会話をする事さえ今の私には新鮮で堪らない。蓮水家にいた頃は、兄も出払っていたし他の者達もまるで私を腫れもの扱い。
まともに会話する事さえ、出来なかった。他の人達はこれが普通だと言うが、私からすればそうではない。だからこそ、この当たり前のような日常が好きだと思える。
――叶うなら本当に、この時がいつまでも続きますように。
眩しい太陽の光が差す廊下を歩き、ようやくお盆を持って歳三様の部屋の前へとやってくる。軽く障子越しに声をかければ、小さく歳三様の声が返って来た。そっと障子を開けた。
「すまねぇな、志摩子。面倒なことを頼んじまって」
「そんなことありませんよ、どんなことでも歳三様が頼って下さるのが私は嬉しいです」
「なぁ、志摩子……」
「はい?」
私が机の上にゆっくり湯呑みを置くと、歳三様は腕を組んで少しだけ改まったように私へと向き直った。何か大事な話が始まるのだろうか? 私はお盆を抱えたまま、きちんと座り直した。