第1章 春ノ刻 土方歳三
「ふふっ」
「志摩子……? 何か面白いことでもあったか?」
「ふふ、いえ……なんでもありません。白味噌の豚汁も美味しいですよ? 心配ありません」
「そうなのか……なら、このままでもいいか。恩に着る、志摩子」
「私は何もしておりませんよ。では、お湯を沸かさせて頂きますね」
私は思い出したようにお湯を沸かし始めた。そんな私を、一様はじっと見つめている。何か他に言いたいことがあったのだろうか?
「あの、一様……? 他に何かありましたか?」
「あっいや、何をしているのかと思ってな……志摩子も何か作るのか?」
「いえ。私は歳三様にお茶をと思いまして……これからお仕事に入られるそうで、その前にと」
「そうか……副長は最近、一層多忙になられたからな。俺も多少はあの人の力になりたいのだが、なかなかそうさせてはくれない」
「歳三様も一様と同じように、皆様のお力になりたくてだからこそ一人で頑張りすぎてしまうのかもしれませんね。思い合うことはよいこですが、無理は感心しません。見つけたら一度くらい、止めるのも大切やもしれませんね」
「そうかもしれないな。だがどうも、此処にいる者達はあまりそういったことに関して、鋭くはなくてな。もし迷惑でなければその……志摩子にもあの人のことを見ていてもらえると有難い」
「大丈夫ですよ。歳三様の力になりたいのは、私も同じですから。ご安心ください」
本当に此処にいる方々は、素敵な人間ばかりです。鬼の一族である私が、こうして人の中に混じって生活する日が来るなど。きっとあの日の私が知れば、驚いて信じられないと声を張り上げるに違いない。でも今は、この瞬間が酷く愛おしく……心地よくも楽しい。
いつかは終わる時だとしても、もしも許されるのなら……私はこの人達と共に生きてみたい。だなんて、そんな気持ちを持ってしまうことは鬼として失格だろうか。今の私はきっと、千景様に合せるかもない。