第4章 冬ノ刻 斎藤一
「すまない、遅くなった」
「いえ、平気ですよ。何やら焦らせてしまったみたいで……こちらこそ、申し訳ありません」
「あんたが謝ることは何もない。あんたが良ければ、少し外に出て雪に触れるか」
「雪に……ですか?」
私は首を傾げて一様を見つめました。実のところ、家からほとんど出ることがなくなった私は、雪を見ることはあっても触ったことは……あったでしょうか? もしかすると、なかったかもしれません。そんなわけで、一様の提案に驚きつつもわくわくしている私がいました。
「雪だるまは後で邪魔になるからな……雪うさぎを作ろう。以前、雪村が作って見せたことがあってな……気に入った」
「雪うさぎですか、可愛らしいですね。一様が宜しければ、是非ご一緒したいです」
にっこりと微笑めば、一様は安心したように「では外に行くか」と私を連れ出して下さいました。
庭は見事な新雪で埋もれ、足を踏み入れるごとに振り返れば面白いくらいに自分の足跡が残る。こうして自らの歩いた道の跡を知ることが出来る、というのも何やら面白い気がします。とても新鮮です。
一定のとこまで歩き終えると、一様が足を止めたので私もそれに習う。
「この辺りでいいだろう……雪うさぎは作ったこと、あるか?」
「いえ、ありません。よければ教えて下さいませんか?」
「俺も見ただけだからな……違うものになってしまうかもしれないぞ。いいのか?」
「ふふ、構いませんよ。一緒に作りましょう」
雪を掴んでみると、思ったよりも冷たくて一気に肌の体温が下がっていく。冷たい、けれど気持ちいい。私はまるで子供のように目を輝かせ、夢中で雪に触れる。けれどあまりにも冷たくて、ずっと掴んでいることは出来そうもない。
離して掌を見つめると、じんじんと赤く染まっていた。雪にこうして触れたのは、初めてのように思います。
私がじっと掌を見つめていると、不意に一様が私の手を掴んだ。