第4章 冬ノ刻 斎藤一
「ところで、あんたは俺に何か用でもあるのか?」
「え?」
「此処に来た、ということは探していたか?」
「あっ、えっとその……そういうわけではないのですが……えっと……」
困りました。素直に「一様のことをもっと知りたくて!」というと、可笑しな娘だと思われるのではないでしょうか? そんなはしたないこと、してはいけないと思うのです! ええそうに違いありません。私はざわざわと荒れる胸の内を隠すように、出来るだけで平常心を装って一様に微笑みかけた。
「その……何をして、いらっしゃるのかと思いまして」
とても苦し紛れでした。情けないです……穴があったら入りたいとは、まさにこのことなのでしょうか? 私が気まずそうに目を伏せていると、ぎしりと床が軋む音が聞こえて思わず勢いよく顔を上げました。
すると、目の前まで一様が近付いていまして……驚いて目を丸くしてしまいました。
「暇なのか?」
「え? あっ、はい……家事も終えてしまいましたので……」
「そうか。なら少しここで待っていろ、すぐ戻る」
「……? はっはい」
一様はそそくさと道場を出て行くと、その足音はどんどん遠ざかっていきました。一体どうしたのでしょうか? 待てと仰ったので、私は大人しくここで待っていることにしました。……暫くすると、先程とは違う着物に着替えている一様が戻ってきました。
この様子だと、もしかすると汗を流しに行かれたのかもしれません。