第1章 春ノ刻 土方歳三
「歳三様の方こそ、いつもお疲れ様です。宜しければお茶でもお淹れしましょうか? 丁度今、洗濯物を終えたところなのです」
「そうか……じゃあ、俺の部屋まで運んではくれないか? 少し書類を整理しようと思ってな……部屋に籠る」
「かしこまりました。すぐに淹れて参りますね」
深く歳三様に頭を下げると、私はすぐに籠を掴んでお茶を汲むため台所へと急ぐ。歳三様はいつも熱いお茶を好むので、少し熱すぎるくらいで淹れると喜んで頂けることが多いように思います。さて、急いで淹れなくては。
台所入れば、難しい顔をしながら一様が鍋と睨めっこしていました。
「どうかされたのですか? 一様」
「ああ……志摩子か。いや、実は味噌汁がおかしいのだ」
「……? おかしいとは、どういうことでしょうか」
「味噌汁がいつもより白っぽい気がする」
「白っぽい……?」
私は首を傾げて一様へと近付く。そっと鍋の中を覗き込めば、確かに言われた通り白っぽい味噌汁が出来上がっていた。これは……どういうことでしょうか。不意に辺りを見回した時、鍋の近くに"白味噌"と書かれた入れ物が置いてあることに気付きました。
「一様、もしやと思いますが白味噌をお使いになりましたか?」
「そういえば……そうだったように思うが」
「だからだと思います。白味噌はいつも使っている味噌とは異なりますから」
「むっ、そうなのか……それは知らなかった」
一様は唸りながら空になっている白味噌の箱を見つめていました。そういえば、いつも使っている味噌がそろそろ切れる頃だったように思います。なるほど、だから代わりに白味噌を……。一様も可愛らしいことをなさる。