第3章 秋ノ刻 風間千景
「将来、お前は俺の妻になる女鬼だ。俺の横に並び、恥ずかしくない簪をつけろ」
「えっ、あっあの……」
「ふん……っ。これでいいだろう」
千景様は藤の簪を手に、会計へと向かってしまった。本当にあの方は……何かと強引だと思います。でも嫌ではない、と……そう思ってしまう自分がいるのもまた事実。
会計を済ませた千景様は、とても自然に私の手を握りお店を出る。いつの間にか、陽は傾き淡い橙色の太陽がゆっくりと沈み始めていた。私はふと、ある場所のことを思い出して思い切って提案してみることにしました。
「千景様、あの……一緒に行ってみたいところがあるのですが、駄目でしょうか?」
「志摩子の行きたいところ? 構わん、煩いところでなければな」
「では、こちらです……!」
ぎゅっと千景様の手を握り返せば、少しだけ驚いた顔を見せたような気がしました。けれど、千景様はすぐにいつもの仏頂面に戻ってしまったので、はっきりとそれを実感することは出来ませんでした。
私達が向かったのは、町の外れにある高い高い丘。そこから町を一望できるのですが、そこそこ穴場らしく人の姿は何処にも見当たりませんでした。秋の心地よい風が吹き、陽が沈んできているせいか……少しだけ肌寒く思えました。
私がさりげなく身を抱くと、千景様は自らの上着を軽く私に羽織らせて下さいました。