第3章 秋ノ刻 風間千景
「お待ちどうさん。あんみつ二つね」
「……ありがとうございます」
お店の方があんみつを持ってきて下さったので、軽くお礼を口にした。目の前に置かれたのは、同じ物でした。ちらりと千景様を見ると、小さく手を合わせてあんみつに手をつけ始めていました。私もそれに習う。
「いただきます」
一口、食べてみると優しい甘さが口の中に広がって、思わず口元が緩んでしまう。
「このあんみつ美味しいですね! あっ、このお店のあんみつ私初めて食べました。実は今まで、みたらし団子しか口にしたことがなく……」
「そうか」
「千景様はこのお店であんみつを食べるのは、初めてではないのですか?」
「そうだな、何度かあるように思う」
「そうですか! 千景様は甘い物が嫌いではない、ということですね。嬉しいです」
「何が嬉しい? それを知ったからと言ってお前に何の得がある」
千景様は興味なさげに咀嚼を続けます。
確かにそう聞かれてしまうと、損得ではわからないように思います。そもそも、私は損得を考えて口にしたわけではありませんし。
「単純に千景様とまた甘味を食べに行きたいと、そう思っただけなんです」
「……。いくらでも、時間ならあるだろう」
「え……?」
「俺とお前は、同じ鬼。今は新選組の連中と一緒にいるから忘れているだろうが、所詮人間と同じ時間を生きることなど不可能。最後にお前が一緒にいる相手は、この俺と決まっている」
「ふふっ、千景様らしいですね。ありがとう……ございます、ですが私は……今はまだ彼らと共に、今を生きてみたいと…そう思うのです」
「くだらないことだな。情が強まればその分だけ、別れが辛くなるというものだ。今のうちに情を持ちすぎるな。面倒だ」
「……はい」
そうは返事をするものの、素直に千景様の言葉を呑み込めるほどにはなれませんでした。千景様なりの気遣いなのでしょうか……何となくはわかっているのですが。どちらかと言えば、千景様は鬼としての意見を下さるので、やはり私の思いと少しずれてしまう時もしばしば。