第3章 秋ノ刻 風間千景
「おい、志摩子。いい加減離せ」
「あ……っ、そうですね……すみません」
「別に構わん。で、何故一人で町になどいる? 新選組の連中はどうした」
「実はその、はぐれて……しまいまして」
「……」
千景様が何も仰らないので、私は恐る恐る彼の顔を伺う。呆れているだろうか? そう思ったのですが、意外にも穏やか表情で私を見つめていた。
「なら少し俺に付き合え。暇だろう?」
「えっ!? でっですが……」
「お前一人でうろちょろされると、後々また面倒なことになりそうだからな。それに……俺がお前を一人きりでいさせるわけもないだろう」
足を止め、甘味屋の前で立ち止まる。私が不思議そうに瞬きを繰り返せば、千景様は私の手を握り直して甘味屋へと入って行く。お店の方に通されて、私達は何となく席に座った。千景様が適当に注文を済ませると、今更向かい合って座っているのがとても可笑しな光景に思えた。
いいのでしょうか……相席させて頂いても。
「あの……千景様」
「なんだ」
「どうして千景様は、町に……?」
「夕刻から予定が入っている、ただそれだけのこと。早めに来たのは気まぐれだ」
「そうなのですが……でも、それでもこうして会えてよかったです。助けて頂いて本当にありがとうございます」
私が小さく頭を下げれば「鬱陶しい……」と小さく呟かれた気がした。どうしてでしょうね、本来なら嫌な言葉なのでしょうが私には彼なりの優しさに思えて仕方ないのです。その証拠に笑い返せば、千景様は私を一度見つめてふいっと顔を逸らした。
言い返さないということは、特別怒っているわけではないのでしょう。きっと今までの千景様を多少は知っているからこそ、そう思えるのかもしれません。