第1章 春ノ刻 土方歳三
私が新選組の皆様と共に、屯所に住むようになってどれくらいの時が過ぎたのでしょう。窓の外から見える景色が変わることはけしてない。それでも私には、とても貴重な時間となりつつある。
彼らに何か返せるわけではなかったけれど、せめて自分の出来ることを一つ一つ積み重ねることだけが、唯一彼らへと返せることなのではないかと思いこうして今日も洗濯物を干す。
「桜がとっても綺麗ですね……」
誰に告げるわけでもなく、独り言のように呟いては桜を見つめる。屯所内に咲く桜は、市中で見かけるどんな桜よりも私には美しく感じられた。まるで飾りのように干した洗濯物へと、花びらがひらりと舞い降りる。手で軽く叩けば、後ろの方から足音が聞こえて振り返った。
「志摩子、今日もご苦労だな」
「歳三様……。いえ、私に出来る事といえば、このくらいですから」
振り返った先にいらっしゃったのは、この屯所内でいつもお一人で沢山頑張っておられる方。新選組副長、土方歳三様。初めて会った時は、なんて美しくも凛と張りつめた方なのだろうと、見入っては恐怖さえ覚えていたように思う。
けれど蓋を開けてみれば、可愛らしい部分も持っていらして……そして少しだけ口下手なところもあるのがわかった。でもとても素敵な方なのです。