第11章 “ワタシ”
マンションの前までつく。
「まだ離したくないな。」
そう言うと繋がれた手を両手で包み口元へ運ぶ。そして私の手の甲にチュッとした。
それを呆然とみていた私を見てふふっと笑うとそのまま私の唇にも同じようにキスをした。
「寒いからね…」
その手を解き私の両肩へ手を移動させるとクルッと入口のほうへむかせ中へ入るよう促す。
「風邪をひかないよう暖かくしてやすむんだよ?」
征十郎はそう言って私を軽く押した。
入口に向かって私が歩き出すと両肩から征十郎の手が離れる。
後ろを振り返るとまた明日、と手を振る征十郎。
また明日ね、と私も振り返すが彼は軽く手を振りつづける。
私が先に手を下ろし自動ドアの中へと入っていった。
自動ドアが閉まる音が聞こえまた外を振り返ると征十郎の後ろ姿が見えた。
私が中に入るまで見送ってくれていたようだ。
そのまま私はエレベーターにのり我が家へ入る。
玄関のドアをあけ中に入るとその場にうずくまった。
征十郎と帰っている間ずっと胸がドキドキしていた。
(これは“ワタシ”のもの?)
その感情が“ワタシ”のなのか“私”のものなのか考えば考えるほどわからなくなってくる。
『ーッだぁぁぁぁーーーーー。』
行き場のないモヤつきに私は声をあげる。
「なにしてるの?」
そのタイミングでドアが開き兄が帰ってきた。
『なんでもないーーーーー!』
私はバタバタと音を立てリビングへとむかった。
その後ろで兄が不思議そうな顔をしていた。