第11章 “ワタシ”
誰もいない中庭で私はひとり先ほどのやり取りを思い出す。
(“ワタシ”ってメンヘラちゃんだったのかな…。)
私にとって彼女の悩みはたいしたことではないと感じたからだ。
皆に好かれたいなら皆を大事にすればいい、それだけではだめなのだろうか。
ただ彼女の“ワタシから皆を取らないで”“皆に愛して欲しい”という言葉からは相当な“独占欲”の強さが伝わってきた。
(だからさっき桃井にも…)
先ほどの自分の頭の中で響いたーキキタクナイーという言葉。あれは彼女のものだと思った。
(じゃぁあのムカつきは?)
中庭に戻ってからはそのムカつきは消えていた。
(………誰のもの?)
どこまでが彼女でどこからが自分なのか。それがだんだんわからなくなる。
(私の気持ちは………)
自分であり自分じゃない。そのことに頭を悩ませる。
大輝のことが好きになったと思ったが彼女の言葉によりその気持ちは本当に“私”が彼を好きなのかという疑問へと変化した。
一人になったとき寂しいと感じた気持ち、頭を撫でられたときの安心感。それは彼女が積み上げてきた今までがあったからこそ生まれた感情なのでは…、と考えるがいくら頭を働かせようとその答えはでなかった。
ベンチに座りながら考えていると校舎の間にある中庭に冷たい風が吹き抜ける。その風の冷たさに身体をブルッとさせると今の自分の状況を思い出す。
『………あ、戻らなきゃ!』
体育館を出たあとどのくらい経っているのか私にはわからなかった。あの空間にいたのはさほど長くは感じなかったが中庭はまだ太陽の光はあるものの最初に来たときよりも薄暗くなっていた。