第11章 “ワタシ”
ーただ、皆のことが好きだから皆に離れて欲しくない。皆がワタシのこと好きでいてくれれば皆ワタシから離れていかない。ワタシから皆を取らないで。皆に愛して欲しい。寂しいのはイヤ。ヒトリはイヤ。ワタシをヒトリボッチにシナイでー
だんだんとグレーだった空間が暗くなっていく。
『ちょ!待って待って待って!落ち着いて!!』
私は慌ててその球体を抱きしめる。
すると暗くなりかけた空間がもとのグレーへと戻っていった。
またワタシが話だす。
ーワタシにはどうしたらいいかわからなかった。皆を自分に繋ぎ止めるにはどうしたらいいか。祥吾にフラれて大輝に甘えて。大輝との関係を深めたら今度は征十郎が怒った。征十郎が離れていくと思った。征十郎が大輝と仲悪くなったらバスケ部の皆もギクシャクする。そしたら敦も真太郎も離れていく。嫌なのッ。皆ワタシの側にいて欲しいの。でもどうしたらいいかわからない。もう考えたくなかった。逃げたいと思った。そしたら事故にあったの。ー
『それでなんで私?』
ーそれはワタシにもわからない。元の自分に戻りたくない、ワタシの代わりに誰か助けてと願った。それがあなただった。ー
『そんでこーなってたってこと?』
ーそう。ー
『あなたはこのまま戻れないの?』
ー戻れない、ううん、戻りたくない。ー
また少し空間が暗くなる。
ーあなたに任せる。あなたの好きにしていいよ。ただワタシはヒトリは嫌。皆に愛されたい。だから………ー
抱いていた球体の光が弱まる。
ー……の……が…………る…ー
声が遠くなる。と同時にグレーだった空間が光に包まれる。
一段と眩しい光を感じ私は目を閉じながら
ー………………………。ー
『待って!』
と叫んだ。
瞼の向こうの光がおさまったのを
感じると目を開きバッと球体を見る。そこにはなにもなかった。
周りを見渡すと先ほどまでいた空間ではなく私は中庭のベンチに座っていた。
『言い逃げされた…。もっと聞きたいことあったのに…。』
眩しい光のなか最後に彼女が残した言葉ははっきりと聞こえていた。
“ー一度黒い絵の具の入ったキレイな水は二度と無色透明には戻らないの。ー”