第5章 放課後の屋上【※】
放課後の屋上ー虹村sideー
屋上にあがると水崎に言われた通りそこには灰崎の姿があった。
屋上の端で何をするわけでもなくただぼーっと空を見つめている。
「おい、灰崎。」
俺がそう言うといつもは、あーー!虹村さん!!ちょっと寝過ぎちゃって!!今から行こうとしてたんすよー!サボろうとしてたわけじゃないんすよー!!とひたすら言い訳をするのだが今日はチラッとこっちを見たらバツが悪そうな顔をしまた視線を空へと戻す。
「…水崎になにかしたのか?」
先ほど泣いていた後輩の女生徒の名前を出すと灰崎がピクリと反応する。
「…はぁ、なにしたんだよお前。泣いてたぞ、あいつ。」
俺は灰崎のほうへ少しずつ歩みを進めた。
「あいつ、なんも覚えてないんすよ。」
ぽつりと灰崎が呟いた。
俺にはその意味は十分理解できた。灰崎にとって水崎の記憶がなくなったことはただ記憶がなくなったでは済まないのだ。
「覚えてないからってお前があいつを泣かしていい理由にはならねぇだろ?」
灰崎に歩み寄り背中を手のひらで一発バシンと叩いた。
ッ痛って!と言い背中をピンとさせる灰崎。
「いつもの威勢はどこいったんだよ。」
それに続き
「お前から手放したんだろ?あいつのことを思って。それで離れていかないとでも思ってたのかよ。お前がしたことだ。いつまでも落ち込んでねぇでシャキッとしろよ。前のあいつも散々泣かせて今のあいつも泣かせて…それじゃぁ意味ねぇだろ?これ以上あいつを困らせんな。おら!部活いくぞ!」
後ろから灰崎の首に腕をまわすとそれを引きずるように歩き出した。
「くッ苦しいっす!くッ首はッッ!」
ーパタン。
扉がしまり誰もいなくなった屋上は夕日によって綺麗なオレンジ色に染まっていた。