第3章 ここはどこ、私は誰?
正直25歳にもなって中学校に通うというのはどうしたものかと思うが
毎日特に何もせず漫画を読みゴロゴロしていた日々、学生に戻りたいな。と思ったことは何度かあった。
学生時代は嫌で仕方がなかった勉強もいざなくなると恋しくなるのだ。(特に数学。笑)
『…あ、でも今色々忘れちゃってるってのは事前に伝えておきたいかも…色々不都合もあるだろうし。』
ワタシは12歳。学校に通うことにはなんの問題もないのだが記憶がないというのは問題である。
そもそも記憶自体がないのだから仕方が無いのだが兄や父が存在している状況なのだから学校にも担任や友人との交流関係もあるだろう。
記憶がないというのを伝えておかなければなにか大きな問題に繋がるだろうと思った。
「そうだね。父さんにも伝えておくよ。初日は父さんと行くといいよ。」
楓はなんて頼りになる兄なのだろう。
25歳の私が10歳近く年下に頼っているのも情けないが現状ではどうしようもないのだ。
「はい、どうぞ。」
空き皿が下げられ目の前に美味しいそうな牛フィレが置かれる。
「梓ちゃんはミディアムでよかったかな?楓くんはウェルダンだよね!」
うんうんと頷くとその美味しそうなフィレ肉にフォークを刺した。
「梓の好きな焼肉!!どう?美味しい??」
口に入れた瞬間口の中でとろけた。
ただとろけるだけでなくちゃんと肉としての弾力はあり噛むとジューシーな肉汁が溢れた。
「梓、美味しすぎてなんも言えない?」
と横で兄が笑う。
「梓ちゃんは焼肉大好きだもんね!」
と佐藤さんも笑った。
(これ予想してた焼肉と違うわ!確かにお肉を焼いてるから焼肉だけど焼肉じゃない!!)
佐藤さんの作る料理を堪能しご馳走様でしたと告げるとまた来てねとエレベーター前まで見送りをしてくれた。
(あれ?お会計したっけ)
と思ったものの兄も佐藤さんも何も言わないのでそのままエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターを降りタクシーで帰路に着く。
タクシーのなかで兄が
「美味しかった?」
と聞いてきたので
『すごく美味しかった!ご馳走様。』
と答えた。
兄は満足気によかったと笑った。
(兄、萌!)
しばらくするとタクシーがあるマンションの前にとまりそこで降りた。