第3章 ここはどこ、私は誰?
タクシーに乗り数十分
降りたあと少し歩いてエレベーターに乗る。
扉が開いた先には大きな水槽があった。
兄が焼肉と言ったから学生でも行くような食べ放題のある焼肉をイメージしていたが入り口からしてそんな安っぽさはいっさい感じられなかった。
『…お兄ちゃん。本当にここ??高そうだよ?大丈夫??』
25歳の私がビビるくらいにそのお店には高級感があった。
「いつも来てるから大丈夫だよ!父さんと来ることもあるけど二人でもよくきてたし。誕生日とかもいつもここでやらせてもらってるよ!」
そういい兄に続き店に入るとコック服を着たヒゲをはやした初老の男性に
「楓くん、梓ちゃんいらっしゃいませ」
と挨拶をされる。
兄は慣れた様子で
「佐藤さん、こんばんは。」
と頭を下げた。
それに続きワタシも頭をさげる。
「さぁ、こちらへどうぞ。」
と案内されたのは目の前に調理台のあるカウンターの席だった。
カウンター越しに大きな鉄板。
それをはさんだ向こう側に佐藤さんが立つ。
佐藤さんの後ろにも入り口と同じような大きな水槽がある。
水槽といっても家に置くようなものではない。
小さな水族館のような壁一面の水槽だ。
その高級感に私は少し物怖じしてしまう。
「なんだか今日は梓ちゃん元気がないね?なんか学校で嫌なことでもあったのかい?」
佐藤さんにそう尋ねられハッと我に返ると
「しばらく病院に入院していたんです。事故で。だからちょっと…ね。」
ワタシがえっと、、と困っていると変わりに兄が答えてくれた。
「そうだったのか!じゃぁ美味しいものでも食べて元気だしてもらわないとね!!」
と佐藤さんが調理に取り掛かった。