第3章 ここはどこ、私は誰?
病院での生活も数日が過ぎた。
その間父親と兄は何度も病院に足を運んでくれた。
言い換えるとその数日間、“ワタシ”は“私”に戻ることはなかったのだ。
そして今日は退院の日。
父は仕事で来れないらしく兄が一人で迎えに来てくれた。
そうして医師や看護師に見送られワタシは病院を後にした。
この数日間で兄とはうまくコミュニケーションがとれるようになっていた。
「梓!退院だしお祝いでなにか美味しいものでも食べに行こうか!」
それに続き
「何が食べたい??」
と聞いてきた。
焼き鳥つまみながらビールがのみたい。
などと12歳のワタシには言えるわけがなく
『お兄ちゃんの食べたいのでいーよ。』
と控えめに返した。
「梓はいつもそう言うんだよね。…て覚えてないよね。梓はねいつも俺に選ばせてくれてたんだよ。ごはんにしても今の家にしても。もう少しワガママ言ってくれていいのにな。」
携帯を片手になににしよっかなーっと呟きながら二人で歩いていた。
「焼肉にしよっか!梓が好きなとこ!」
と言うとワタシの返事を聞く前にどこかへ電話をかけはじめた。
「……。あ!水崎ですけど。あ、はい。楓です。今から妹と二人でお伺いしてもいいですか?……はい、お願いします。」
電話を切ると手を引かれ今の 来た道を戻る。
『焼肉??』
「うん!焼肉!!梓、そこに行くといつも嬉しそうに食べてくれるから!ちょっと距離あるからタクシー乗ろっか。」
と病院前にあるタクシー乗り場へと向かった。