第16章 赤いキミに【※】
『……どういう意味?』
以前として頭上で手は縛られたままだ。だが今はそれ以上に征十郎に自分のことを悟られていることのほうに気を取られる。
「そのままの意味だよ。事故にあった後から記憶障害といえど梓の本質までも変わってしまった気がしてね。皆は感じていないかもしれないがクラスが一緒の僕はどうも君が君に見えなくてね。違う人物のような気がして…。」
征十郎の鋭い観察眼、人を見極める力、それがあることははじめから分かっていた。それなのに何一つ気にせず今まで行動してきた結果気づかれていたのかと冷静に頭で考える。
『…………。』
「…まぁ現実的に考えて本人であることは間違いないだろうけど…梓の第二人格とでも呼ぶべきなのかな?以前とは少しズレを感じる。」
ああ、そうか。と彼のことを思い出す。あまりにこの世界に溶け込みすぎて段々と忘れかけていた。
征十郎は私が自分と同じ多重人格という状況下に置かれていると認識しているのか、と考えその方向に話を持っていく。
『……だとしたら?』
「そうだったとしても僕はどうもしないよ。」
そのまま顔が近づき再びキスをされる。
顎を掴まれているためまたしても逃げることは出来ずされるがままの状態になる。
『…んーッ…ん!!』
ぐいっと顎をひかれわずかにできた隙間に征十郎が指を滑り込ませた。
『…ふぁっ。』
その指によって私の口が開かれる。いっそ噛んでしまえばよいのだが征十郎の指に痛みを与えてしまうこと考えると実行することは出来なかった。
「うん、いい子だね。そのまま開いてて…。」
その指で開かれた隙間から征十郎の舌が侵入してきて私の口内を犯していく。
『…ん……ふぁ……ぁッ』
征十郎の舌がねっとりと口内をなぞると口の中がどちらのものかわからない唾液で溢れ口元からだらしなくこぼれた。
っちゅ…くちゅ。
そのキスをしながら征十郎は時折額から頬にかけて撫でたり耳をやんわりと触れたりしてきた。拒んでいたはずなのに甘く優しいそのキスに流されてしまう。
「……梓?」
いきなり唇を離すと征十郎が優しく私の目元を指でなぞった。
私の目からは涙が零れていた。
「そんなに嫌…?」
『…ッわかんない。』
実際何故涙が出たのか自分でもわからなかった。本当に気がついたら零れ落ちていたのだ。