第16章 赤いキミに【※】
「んじゃ、帰っか!」
「…ちょっと待ってくれないか?」
それをとめたのは征十郎だ。
『どうしたの?』
すると征十郎は私の手を掴み
「青峰は桃井を送っていってくれ。梓は俺と二人で帰る。」
「は?別に皆で帰ればいーだろ?」
「いや、梓に用があるから。俺にもご褒美ってやつでここは譲ってくれないか?」
征十郎が私の手を掴んだまま話し続ける。
「うーん。一位の赤司くんに言われたら…ねぇ?」
桃井がぽんぽんと大輝の背中を叩く。
「……わぁーったよ。行くぞ、さつき。」
不貞腐れた顔で大輝がそう言うと桃井とともに背中を向け行ってしまった。その背を少し複雑な表情で見つめる私。征十郎はその私をみて掴んでいた手を恋人繋ぎにかえ帰ろうか、と微笑みかけられた。
「…青峰と帰りたかったかい?」
征十郎に大輝とのことを聞かれると以前にもあった出来事を思い出す。
あの流れには持っていきたくない為繋ぐ手に力を入れ
『ううん、一緒に帰ってくれるのが征十郎でよかった。』
と彼に笑いかけた。
それにそうかとだけ返されあとはたわいもない話を続けているうちにマンションへと到着した。
『…送ってくれてありがとね。征十郎も気をつけて帰ってね。』
そう言ったのだが征十郎は繋いでいる手を離さない。
『…征十郎?』
「…少し家にお邪魔してもいいかな?今日は時間があるし、もう少し梓と話がしたいな。」
今日はまだ時間も早いし、征十郎の場合お迎えも簡単に呼べるだろうから帰りの心配要素も少ないのでいいよ、と返した。
『ただ、コンシェルジュさんいるから…手だけ…離してもいい…?』
征十郎はその意味を察しマンションの自動ドアをくぐる手前でその手を離す。
がエレベーターに乗り込むとその手をまた繋ぎ直した。
「梓の手、あたたかい。」
エレベーターという密室の中、征十郎との距離が先ほどより近くなった気になる。握られた手からじんわりと汗をかいていくのがわかった。
『あ、ごめん。私、手汗…』
「…いや、俺じゃないか?…気にならないよ。」
そう言われるが征十郎の手は私よりも冷たい。その犯人は自分であることは明確だった。少し顔を俯かせると
「ふふっ。可愛い。」
そう言って空いているほうの手で頭を撫でられた。