第1章 worst world
俺はさきほどの少女の安否確認をしていないのを思い出し、アルベロのうるさい声を無視して後ろを向く。
「おい、大丈夫か……」
「っ!!」
軽口を叩いていた少女のほうに振り返ると、突然瞬間的に目の前に見えたのは、硬く握られたこぶし。瞬時に少女が俺に殴りかかろうとしている事が分かり、右手をすぐに出す。
「!」
「…何だよ。俺お前を助けただろ?」
俺は少女の手を掴み、離さないままに余裕のある顔で聞く。
「お前に助けを求めた覚えは無い」
少女は「離せ」と言って乱暴に自らの手を引いた。その手で少女は赤に近いピンクの束ねた髪を、手で軽く払いのけ、自分の短いワンピースの裾を引っ張った。
「でも一応助けたよな」
「お節介だ」
「お前動けてなかったじゃねぇか」
「都市軍を極限まで苛立たせたかったんだよ。助けてやって「ありがとう」が欲しいんなら他あたれ」
「感謝って言葉知ってるか」
「知ってるのとするのは違ぇだろ」
「そういう問題じゃねぇだろ」
「そーいう問題だろ」
「やんのかおい」
「殺ってみろや? あぁ?」
「そろそろ止めて下さい!! 読みずらいです! 絶対この小説読みずらいって思われてます!!」
俺は一息ついて、もう一度少女の方を見る。
「お前、名前は?」
「あんたに教える名前は無い」
ツーン、とそっぽを向いて興味が無いように遠くを見る少女。俺は頭をかき回してからため息をついた。
「…俺はユアンだ。ユアン・メイ」
俺が名乗ると、少女は表情をピタリと止めた。そして、ゆっくりとこちらへ向く。
「……メ…イ…。………ユアン…? おま…ホントか…?」
いきなり考え込むように俺の姓と名前を何度か言うと、そう問う。
「なんで名前なんかで嘘吐かなきゃいけねぇんだよ」
「…そうか。…………まさか…な…」
そう小さく言うと少女は少し悲しそうな表情を見せた。それは、懐かしむような、そんな目だったと思う。