第2章 消えた大樹
時は、先程の騒動から1週間前にさかのぼる。
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青い空からは、大地をジリジリと照りつける陽が降り注ぎ、木の葉を光らせている。
心地よい風が吹きそれらが揺れると、なんとも気持ちがよくなる。
―――今日はいい天気だ―――
ザっザっザっ―――
そう思っていたところで、不意に遠くからそんな音がした。この音は……人がこちらに歩いて、地面を踏んでいる音だ。しかも複数。
―――せっかくの悠長な時間が……はぁ…―――
「おぉ。今朝もセオの大樹は美しいな」
「朝日を浴びて一層美しさが増したようだ」
「礼拝をするぞ」
何人かの人がこちらにひざまずいて、ブツブツと呪文のようなものを呟く。毎朝毎朝、飽きないものだ。
「今年も豊作をよろしくお願いします……。セオ様…」
最後に一人がそう言うと全員は立ち上がり、再び地面を踏み音を鳴らしながら帰って行った。
―――…毎朝そんな事を言われても、そんな事は出来ないのに…―――
自分は、この街の象徴であり、神である『セオの大樹』だ。『セオ』というのは、どこかの国で『神』や『偉大な』という意味らしい。
人々は自分が大きな木だから、という理由で、勝手に尊び、自分をあがめた。
毎朝先程のようにここに来ては、勝手な願い事を言い、さって行く。それが叶えば『セオ様のおかげ』と街で宴をし、叶わなければ多くの『供え物』をここまで持ってくる。そこの土が悪くなるので、本当にそれだけはやめてほしいのだが……。
なにしろ、人には自分の言葉が届かない。たから、自分が何を言おうと、あの人間達には関係ないのだ。勝手な解釈をし、勝手にあがめ、勝手に喜ぶ。人とはなんて不思議なものだろう。
自分は人間を何100年と前から見ているが、これほど不思議な生き物は他にはいないと考える。
次々に進化を求めるのに、周りが進化するのを恐れ、嫌がる。だが、それに対応をし、さらなる進化をとげる。互いに傷つけあい、助け合い。潰しあい、協力し合い…。
訳の分からない生き物だ。
ザっザっザっ―――
再び人の歩いてくる音。どうやらこの音は1人のようだ。
―――全く…今日は朝から面倒だ…な……?―――
自分の目の前まで来た人は、その場で崩れるようにひざまずいた。小さな嗚咽がそこから聞こえた。