第2章 消えた大樹
家々が連なる夜の街。静かに吹く風は、もうすぐくる春の気配を感じさせる、生温かいものだった。
いつもは、この時間帯であれば静かなこの街だが、今日はそんな訳にもいかないようだった。
「そんなことがありえるのかっ?!!」
一人の住民の声。その声を何かの装置にするように、住宅からは多くの人が出てくる。
「本当だよ! この目で近くから確かに見たんだ!」
「ここからでも確認出来るぞ!!」
先ほどとは違う住民が、遠くを指さした。
「あぁ……本当だ…」
「大樹が、セオの大樹が……」
「消えた―――」
街の東。少しだけ盛り上がった丘のような場所に、住民の視線はあった。
丘の中心部から離れた所には、所々ではあるが、木々がみられる。が、しかし、その丘の中心部には、草も木も何もなく、他の部分とは異質の雰囲気を放っていた。
まるで、そこだけぽっかりと『穴』が開いてしまったようだ。
その『穴』のような視界の空けた部分からは、怪しげな黄色の月が覗いていた。