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罪深き河童よ(銀魂:桂夢)

第1章 罪深き河童よ


だが、そんな必死な女の話で桂は悟る。この者は河童の子を孕んでなどいない事に。何故ならば、これは幼少の頃によく聞いた「間引き」の手法と一緒だったからだ。

間引きとは、簡単に説明してしまえば望まぬ子供に理由をつけて殺してしまう事である。

昔、天人がまだ日本に開国を迫る前、世の中には大人の事情で生を望まれぬ子供たちが沢山いた。貧しさのあまり家族に養ってもらえない子供。奇形な体や障害の脳を持っている、世間から疎外されるような子供。忌み嫌われる双子。間違えて作ってしまった子供。

都合の悪い生まれをした命は、とりあえず「人間の子ではない」と噂を流され、密かに大人達により殺される運命を辿る。何も悪い事などしていない。人間でなければ殺す事に罪悪は感じないのだから。信仰深い日本の民は、その噂を迷信だとさえ気付きはしない。

しかし、この悪弊も天人が来てからはすっかり無くなったものかと思われていた。開国後の生活水準は日本史に残るほど高く、貧乏な人々でも生きて行ける時代となった。奇形や障害も科学の力でサポートされ、育てられない可能性の方が低い。双子が不吉と言うイメージも既に時代遅れだ。間違えて孕んだ子も、中絶で簡単に処理する世の中に変わった。例え産んでも、要らなければ孤児院に入れてしまえば良い。良くも悪くも子供が育てやすく、そして子供を捨てられる世界に進化しているのだ。

だから都市伝説に近い「河童」を理由に、子供を自ら殺そうとしている武家の人間を珍しく思うのである。恐らく女は河童などではなく、屋敷の主人に強姦されて妊娠したのだろう。妾などの一夫多妻制が疎まれる今の時代、奥さん以外の女と作った子供は非常に世間体に悪影響を及ぼす。どうしてもスキャンダルを揉み消したい一心で、主人は自分のエゴをこの女中に押し付けたのだろう。

子を産むまで屋敷を離れる事は許さず、そして子が死ぬまで女に自由を与えない。けれど子供を亡くした後も、女はまた弄ばれるのだろう。彼女もまた、それを知っているからこそ死を願っている。極悪非道とはまさにこの事。つまらない男の肉欲の所為で、母子は辛い選択を余儀なく選ばされていた。

桂は、そんな女が哀れでならなかった。
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