第1章 罪深き河童よ
月の光を背に立っていた彼は間違いなく、あの優しい侍だった。けれど奇妙な着ぐるみを着用し、更に口周りを黄色いクチバシのような物をつけている姿に、女は驚く。
唖然としていれば手を引かれ、女は桂の腕の中へ。腹の子を気遣うように姫抱きされれば、お得意の逃走劇の始まりだった。
「心配は無用だ」
逃げの小太郎に死角はない。彼を背後から追ってくる警備兵も、二人の幼い河童により妨害される。
「子供を望む母が、子を産んで何が悪い」
抱かれたまま敷地外へと連れて行かれ、彼から受けた言葉に女は涙する。滲んでしまってはいるが、彼越しに見る月は美しかった。