第20章 過去へ……
目が冷めて、当たりを見渡すとそこは見慣れない屋敷。
日本の家屋だというのは、理解してる。
――確か、僕は謙信様が打倒された後、かすがと逃げようとした。
でも、燭台切がそれを許さなかったんだ。
抵抗するけど、最終的に眠らされた……。
そうだ、五虎ちゃんは何処?
「五虎ちゃん、五虎ちゃん」
気弱な彼なら、泣いているに違いない。
ここは、きっと伊達軍の屋敷だろう。
かすがも居ない、上杉軍も居ない、兄弟も居ない。
僕が、僕がしっかりしなきゃ。
くよくよしてちゃ、駄目なんだ。
謙信様の運命を変えられなかったぶん、僕は五虎ちゃんを支えるんだ。
「五虎ちゃん、五虎ちゃん」
廊下を走るように、五虎ちゃんを探す。
僕が着ている着物は、見慣れた着物だ。
――あの日、あの時、姫鶴一文字が着ていた赤い着物。
十二単ってやつだね、本当に重たくて辛いよ。
僕は、五虎ちゃんを探すうちに、伊達軍の兵士に出会った。
五虎ちゃんは、泣きつかれて眠ってるそうで、部屋を案内してくれた。
強制的に眠らされた僕とは違い、五虎ちゃんは手入れもされないまま、ボロボロの状態で牢屋に置かれていた。
――この、待遇の差にイラっときてしまうんだ。
「五虎ちゃん、五虎ちゃん」
「ひいさま、ひいさま!! 謙信様の敵を、謙信様の敵を!!」
五虎ちゃんの目は、完全にイってる。
完全に、病んでしまった目だ。
――無理もない。
「――守れなかった僕らに、そんな資格はないよ」
「ひい、さま……」
「割り切るしかないんだ。謙信様なら、本当に敵を打つ事を願うの?」
「お優しい、方です……。そんなこと、言いません……」
「じゃあ、何て言う?」
「わかきりゅうを、まもりなさい」
たぶん、五虎ちゃんは死ぬ間際に謙信様と会話したんだろう。
その言葉が、謙信様の言葉なら、僕は忠実に守るよ。
――だって、僕は謙信様の愛刀、姫鶴一文字。
上杉謙信の誇り高き刀だ。