第24章 すれ違い
ベッドの横に置かれた丸椅子に腰を下ろして、もう一度彼女の名を呼んだ。
「朱莉。」
すると俯いたままゆっくりとした動きで俺に近付いて目の前に立った。
あ、泣いてる
そう思った時にはトン、という衝撃と共に朱莉の匂いがふわりと鼻を擽った。
座った俺の首に回された朱莉の腕。彼女の方から抱き着かれるなんて思ってもみなかった。
「朱莉?」
「あのね、やっぱり、あたし達付き合わない方が良かったんだと思う。」
耳元で聞こえる声はとても優しいのに、恐ろしく残酷な言葉を紡いだ。
「そんな事ない!!」
「だってあたし、だいちに迷惑しかかけてない…困らせてばっかりだし…今だって…」
「違う、違うから…」
「大丈夫、別れようなんて言わない。だから…少しだけ距離を置きたい。」
自分が変わるための時間が欲しい。
そう朱莉は俺に告げた。
「っ、……わかった。」
何も言ってやることが出来ないまま、彼女の華奢な身体を抱きしめ、俺はその願いを聞き入れた。
「ありがとう…」
そういった彼女の声はとても穏やかだった。