第13章 黒尾
襟口からぷはっと顔を出すと、目の前にはさっきまで俺の理性をかき混ぜてきたべにちゃんの顔があって、ビックリするのと同時に顔に熱が集まるのが分かった。
黒「なっなんだよ!」
俺の質問には答えず、ゆっくり俺の顔に手を伸ばして、壊れモノを扱うようにひんやりとした手がそっと触れた。
「そう焦るな。今出来る最善を尽くせ。」
堅苦しい言葉なのにこの子が言うと何故か妙に説得力があって、真っ直ぐなその瞳から目が離せなかった。
俺はまるで催眠術にでも掛かったんじゃないかってくらい紅林朱莉と言う1人の女の虜になっていた。
黒「あ、あのッ「そろそろ時間だね。戻ろうか」
その言葉と共に無くなった感覚に悲しみがこみ上げる。
今は言うべき時じゃなかったんだ。それだけだ。
そう自分に言い聞かせ、平然を装って言葉を投げかける。
黒「べにちゃんはさー、好きなヤツとかいねーの?」
少しも話題の変換になってないけれど、沈黙になるよりマシだ。
「、、、いるよ。」
少し間を開けて返された言葉はまあ何と言うか予想通りで、相手もすんなり思いつく。
黒「告ったりしねーの?」
「しないよ。」
即答に近い勢いで返された言葉に思わずたじろいだ。