第13章 黒尾
猫「何を言いたいのか分からない、と言いたそうな顔だな」
図星、けどそれがあまり表情に出ないのがあたしの良いところだと今は思うことにしよう。
「よくお分かりですね。」
猫「伊達に長く生きとらんよ」
豪快に笑う猫又監督を視界の端に入れながらスコアをちょこちょこと付けていく。
「何を仰りたいんでしょうか。」
猫「えらく率直だな。」
「それがあたしの取り柄です。」
ふむ、と小さく頷いてからこちらを一切見ることなく言った。
猫「君は何故そんなに恐れる。」
一瞬あたしの耳に一切の音が無くなったような気がしたけど、それはすぐに戻った。
「何を、でしょう。」
焦っていることを知られぬよう、平然と聞き返す。
猫「全てだ。君も、分かっているんだろう?」
もちろん分かっている。
けど頭の中で嫌だ、認めたくないと本能が言わせまいとストップをかけている。
猫「人を信じる事を恐れ、
信じられる事を恐れ、
自分の隣に誰かが居る事を恐れ、
誰も居ない事を恐れ、
幸せな事を恐れ、
幸せになれない事を恐れ、、、違うか?」
全部全部、当たっていた。
もう試合の事なんて頭から抜け落ちてしまった。