第1章 phase1 独唱
と、家の外から悲惨な悲鳴が聞こえた。
玄関を開け、少しした所の歩道橋に彼女の姿があった。
長い髪の隙間から太い4本の触手を生やした彼女が、3人組の男達をひざまづかせていた。
その触手は電灯に照らされ、血…であろう色に染まっていた。
「紗栄子…ちゃん…」
「…あら、起きたのですか。
せっかく汚物を排除している所でしたのに、お見苦しい所をお見せしてしまいましたね。」
せめて…と言い、彼女は触手で男達をつまみ上げて、歩道橋の外に投げ捨てようとしていた。
「紗栄子ちゃん!!何してるんだ!!」
「何って、汚いものを捨てようとしてますの。爽さんも汚いものはお嫌いでしょう?」
そういう事じゃ…
言いかけた言葉はトラックの音に阻まれ届かず、そのタイミングで彼女はゴミをゴミ箱に捨てるかのように男達を放り捨てた。
その直後にトラックのクラクション音が響き渡り、男達は勢いよく飛んで行った。
「君は……一体どうしたんだよ!!」
肩を強く揺さぶると急に我を取り戻したように僕に焦点を合わせた。
「私……この血は…」
ゆっくりと触手がなくなっていき、彼女は急に震えだした。
「私は…人を殺したのですか…」
「違うよ。君が殺したんじゃない。
君は殺してないんだ…」
なんの説得にもなっていないが、彼女をまずは落ち着かせなくてはと思い抱きしめた。
「爽さん。私、自首します。」
「しなくていい。
逃げよう、逃げるんだ。
ここから少しでも遠く、誰も知らない所に!」
そう言うと急に俯き、また背中に触手が生え始めた。
「逃げなくたって構いません…私こそ正義。
私こそが概念となるのですから、私はこのまま…」
そう言うと彼女は近くの木々を飛び移りながらいなくなってしまった。