第2章 幼少期
「……あ、そろそろ戻らなきゃ…」
どうやら劇の練習の合間にここに来ていたようで、公園の時計台を見ると慌てて立ち上がった
「…ねぇ、名前教えて?」
「えっ」
まさか聞かれるとは思わなくて思わず声をあげた
するとそれを拒まれた、と思ったのか悲しそうに眉を下げてだめ?と聞いてきた
…可愛すぎる。わざとやってるのか
「ダ、ダメなわけないよ!私は宮野思音!…君は?」
「一ノ瀬トキヤだよ」
…ふふっ、やっぱりか
にやけるのを紛らわせるためににっこりと微笑んで、よろしく!と元気よく手を出した
するとトキヤはなぜか頬を染めてよろしく…と、控えめに私の手を握って、握手してくれた
―――…あれ以来、トキヤとは会ってはいない
よろしく、とは言ったものの、名前を知っただけで身元もなにもわからない
もしかしたら、たまたま地元の近くに劇団員できてただけかもしれないし
ちょっと残念だなぁ、とか思いつつ、今日もピアノを弾く。なんだか、楽しい。だって、また会えそうな気がする……―――
授業が終わって、放課後になったらすぐ家に帰ってきて、自分の部屋にこもる
私の部屋には、私が生まれる前からピアノが置かれていた
よく母親がここで作曲していたのだと言う。
私は今日も、思い思いにメロディを綴っていった