第8章 少しだけ震えた彼の肩
俺は彼女に____美和さんに、嫌われるようなことでもしたのだろうか。
自室の畳に寝転がり、天井を見つめながら考え始めて、どれくらい経ったことだろう。
どれだけ考えても、彼女の謝罪の意味はわからないままだった。逃げるように帰ってしまったことも。追いかける勇気もなければ、メールを打つ勇気もない。結局俺は、彼女に嫌われたことが分かるのが怖いだけだ。
特に目的もなしに立ち上がり、部屋から出る。喉が渇いたような気がするから水でも飲もう。ついでに土方のマヨネーズにカスタードでも打ち込もう。
取り留めもなしに考えているうち、近藤さんと土方さんの声が聞こえ始めた。
「そうだとしても………酷じゃあないか?」
「このまま放っといて、お互い傷つけ合うのを見ている方が酷ってもんじゃねェか、近藤さん」
聞いてはいけない話のような気がして、足を止める。二人は、食堂の入り口で話しているようだ。物陰からそっと顔を覗かせれば、困った顔の近藤さんと、俯いた土方さんが並んでいた。
「総悟があそこまで心を開いた友は初めてなんだぞ。その二人の仲を引き裂くなんざ野暮じゃねェのか?」
「美和の方はもう既に勘づいてるらしい」
「え、じゃあ……。総悟が見てるのは美和さん本人ではないと」
「あァ、自分でそう言っていた」
ぞわ、と。
身体中の鳥肌が立つような気がした。
俺は確かに、美和さんと姉上を重ねていた。でも違うんだ、それだけじゃねェんだ。
あの人と一緒にいてェ。姉上じゃねェ、美和さんの人柄が好きだから、俺は____
「土方さん」
「_____!総悟、お前」
「俺が、生きてる人間を死人に重ねるほど____罰当たりな奴に見えるんですか」
俺が、美和さんを姉上の代わりにしていると____本気で思うんですか。
そう問うと、土方さんは目を細めた。
「美和さんは、大口開けて笑いまさぁ」
「……は?」
「死にたくねェと見苦しく泣き喚きます。でけぇ声で汚ねェ悲鳴もあげるし、部屋も整理されてねェし、後は____」
「お前、何言って」
「姉上とは似ても似つきやせん。全くの別人でさぁ。俺は最初、確かに姉上の影を見つけて近付きやした。でもそんなもんねーんだ、姉上なんかじゃねェ」
俺は、紗倉美和という一人の女を、愛している。