第8章 少しだけ震えた彼の肩
「美和さん、どうかしたの?」
「え?」
「浮かない顔をしてるから……」
「何もありませんよ、そよ姫。……フラフープ、上手くなりましたね」
「そう?神楽ちゃんがね、フラフープやってるとくびれができるって言ってたから、頑張ってるの!」
お城の中庭で、そよ姫がフラフープを回し始めてからずいぶん経った。彼女ならフラフープなんてやらなくてもくびれはあるだろう。____という言葉は腹の奥にしまい、楽しそうにフラフープを回されるそよ姫を見つめながら、私は昨日のことを考えていた。
離れる____と決めたものは決めたのだが、一体どうしたものか。あの後、自宅に帰ってから総悟くんからメールが届いた。わざわざ運んでもらってすまない、といった旨のものだ。そして、今度お礼をする、と。どんな返事をしようか困ったのち、「怪我、お大事に。そんな大したことはしていないから、お礼は大丈夫です。お休みなさい。」と送った。さすがに返信を返さないのは気が引けたし、土方さんと約束してしまったこともあるから、そっけない文章にはなってしまった。
「美和さんも回しましょう!」
「えっ」
「じい〜!フラフープもう一個持ってきてくれる〜?」
「えええ……」
それから私は、仕事の定時時間まで延々とフラフープを回し続けることとなってしまったのだ。
*
「あッ、美和さん!」
「総悟くん……」
帰り道、お惣菜を買って帰路についていると、前から見慣れた黒い制服が近づいてくるのが見えた。道を変えようと思ったが、わざわざ変えるのもおかしいと思ってそのまま歩く。
「ほんとに昨日は、お世話になりやした。面目ねェ」
「ううん、もう歩いて大丈夫なの?」
「傷は浅いんで。さすがに飛んだり跳ねたりは無理ですけどねィ」
そう言って軽く微笑む総悟くん。その顔はやはり私に向けられているものではないのだろうか。彼は私を、友達だと思ってくれていると感じていたが____それは違った。彼は、彼の優しさは、全てミツバさんの、
「美和さん?」
「………ごめんね、総悟くん。」
私はそう言うと、踵を返して自宅へと走り出した。彼は追いかけてはこなかった。
私は彼にとって、大切な存在になっていると思っていた。なんていう勘違いをしていたのだろう。恥ずかしい。自分が、惨めで堪らなかった。