第8章 少しだけ震えた彼の肩
「………頼みがある」
「なんですか?土方さん」
「アイツと____総悟と、距離をとってほしい」
「………」
「お前らが友人関係にあることは分かってるが____今の状況は良くねェんだ。ミツバを忘れた方がいいということじゃあねェが…アイツには前に進んでほしい」
「私が、総悟くんの側にいれば……彼はずっと、お姉さんのことを…」
土方さんは無言で私を見つめた。
彼の言わんとしてることは分かる。彼は総悟くんに、前に進んでほしいのだ。お姉さんのことを、過去を見ているだけではなく____前に、未来に。
私とお姉さんを重ねたとして、過去を見つめ続けたとして……一番傷付くのは総悟くん自身だろう。どこまでいっても、私は私自身だ。お姉さんには____ミツバさんには、なれないのだから。
「わかりました」
「……悪ぃな」
私が帰ろうと立ち上がれば、続いて立ち上がる土方さんの目には、哀しみの色が浮かんでいた。
きっと彼も、ミツバさんのことを忘れたくないのだろう。ずっと思い出に浸っていたい、でもそれはできない。それを彼は一番知っている。
「もう暗いな。送る、車を出してくるから待ってろ」
「いえ、大丈夫です。ここで。……ありがとうございました」
門で、送ろうとしてくれる土方さんに頭を下げて、自分の家に向かって歩き出す。今から買い物に行く気分にもなれず、お登勢さんのところで何か食べようと思って歩を進めていれば、見慣れた後ろ姿が見えた。
「坂田さん?」
「ん?……あァ、美和か」
*
あの後、坂田さんと近くのファミレスに入った。いつも貧乏な坂田さんなのに、今日は珍しくお金があるらしく彼の方から店に入らないかと誘ってきたのだ。
「で、お前今度はどんな厄介事拾ってきたんだよ」
「……エスパーですか?」
「分かりやすいんだよ」
そう言って坂田さんはパフェを口に運ぶ。私はドリアを食べてる手を止め、ぽつりぽつりと話し出した。
「_____と、いうわけです」
「へェ、多串くんがねェ」
彼は、残り少なくなったパフェを一気に掻き込み、飲み干してから何でもないように言った。
「まァ、総一郎くんの気持ちも汲んでやんねーとな」
それは、私に当てた言葉なのだろうか。それとも____